議論の場
本欄では,賛同者,呼びかけ人からいただいた,ある程度文字数のあるご意見を掲載してゆきます。皆様のあいだでの今後の議論のお役に立てればと願います。
賛同者,呼びかけ人の皆様にご投稿をお願いします。
・10月1日掲載
[8月14日掲載文章につづけて,再度真屋尚生氏よりご投稿をいただきました。文中にもあるように,この場が活性化していないことは寂しいかぎりです。皆様からぜひご意見をお寄せください。(HP管理者)]
真 屋 尚 生 商学部・(元)教員
他大学に比べ、賛同者の数が少なく、「議論の場」への投稿がないのが、寂しいかぎりです。とても危険な状況になりましたが、どのような理屈を付けようと、戦争が「絶対悪」であり、福祉の対極にある究極の貧困であることは否定しようがありません。敗戦の年1945年生まれの人間として、平和が何よりも大切なことを肝に銘じて生きてきました。まだ平和のための「戦い」が終わったわけではありません。息の長い抵抗を続けましょう。以下の文章は、東京都年金受給者協会の会誌『とうねんパートナー』No.193(2015年秋号)の巻頭言「春夏秋冬」に「三年連続世界一になりました」として掲載されたもので、漢数字の一部を算用数字に改めました。人類発展の歴史に逆行する愚かしい動きは、何としても食い止め、平和日本を築いていきましょう。
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覚えている人が、どれくらいいるだろう。あの「迷」セリフ「世界一になる理由は何があるんでしょうか? 2位じゃダメなんでしょうか?」2位でも3位でも悪いわけじゃないが、3年連続の1位、何とも素晴らしいではありませんか。
厚生労働省(2015年7月30日)によると、昨2014年の日本人の平均寿命は、女性が86.83歳で3年連続世界一、男性が80.50歳で世界3位。ともに日本最長記録を更新しました。素晴らしい。医療技術の進歩による効果的な治療が可能になったこと、健康志向が高まったこと、などがその背景にあり、今後も平均寿命は延びる可能性があるそうです。
また、20年以上にわたって百寿者に関する調査研究を続けてきている慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターによると、百寿者には、糖尿病と動脈硬化が少ない、防御ホルモン(善玉ホルモン)のアディポネクチンが多く分泌されている、食べる意欲が旺盛でよく食べ、興味を持ったことに対して前向きで熱心に取り組む、などが共通しているとのことです。本稿が、読者の皆さんの目に触れるころには正確な数値が明らかになっているはずですが、今年2015年中に日本人百寿者が6万人を超えることは確実です。
ところで、百寿者の増加をもたらした医療技術の進歩は、どのようにしてもたらされたのか? 医学者・臨床医をはじめとする多くの医療関係者の日夜を問わない努力と研鑚によるものであることはいうまでもありませんが、それを可能にしたのは、第二次世界大戦の苦い経験を肝に銘じ、多くの先人が、また私たち自身が、人命を尊重し、憲法第9条を守って、平和主義に徹し、戦争を永久に放棄してきたからにほかなりません。平和の維持に努め、知恵を絞り、汗を流して、社会の安定と経済の発展に尽くし,多くの矛盾を内包しつつも、豊かな社会と呼べる平和国家・日本を築いてきたからです。
昨今の政治家の中には、歴史を正しく学ぶことなく、危険な政策を選択しようとしている人たちが沢山います。日本の社会保険の歴史をたどると、医療保険・年金保険ともに戦時体制下において制度的に整備拡張されたことがわかりますし、福祉国家の母国ともいえるイギリスにおいても類似した歴史的事実が観察されます。だからといって、社会保障・社会保険の発展のために戦争を!ということには、むろんなりません。
私の30年来の友人である科学的根拠に基づく医療保障研究の第一人者ミュア・グレイ卿は、二一世紀において問われるべきは「正しいことを正しく行っているか」である、と喝破しています。平和の維持、すなわち長寿は、社会全体の英知によって達成していかなくてはなりません。
日本人女性が世界一、男性が第3位の長寿であることは、オリンピックや各種競技の世界選手権などでのメダルの獲得や入賞などとは比較にならないほどの一大盛事だとは思いませんか。
・8月14日掲載
[以下の文章は,本声明の賛同者のおひとりで,本年4月30日付で日本大学商学部を定年退職された真屋尚生氏が,文頭にあるとおり昨年ある雑誌に載せたものの再掲になります。]
真 屋 尚 生 商学部・(元)教員
70回目の敗戦記念日―私は「終戦記念日」という言葉を使いません―を迎えました。ちょうど1年前に執筆した原稿を皆様にあらためてご披露いたします。下記の文章は、東京都年金受給者協会の会誌『とうねんパートナー』No.189(2014年秋号)の巻頭言「春夏秋冬」に「「見解の相違」などない話」として掲載されたものです。その後、事態は一段と悪い方向に向かっています。人類発展の歴史に逆行する愚かしい動きは、何としても食い止め、平和日本を築いていきましょう。
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おごれる権力者たちが、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を今年(2014年)7月1日に行いました。社会保障と税の一体改革とは比べものにならないほどの危険な意思決定です。彼ら彼女らは、いざ集団的自衛権を行使する段になると、さまざまな理由を設け、もっとも安全な場所にいち早く避難退避して、命令を下し、号令を掛けるだけで、前線に立って戦うことはきっとないでしょう。愚かで危険な閣議決定によって戦争に巻き込まれる日本国民はいうまでもなく、世界市民全体が、大きな犠牲を強いられる可能性が一段と高まりました。
世界地図をご覧いただきたい。極東の狭小な高齢化大国・日本が今世紀を生き抜くための国是は、非戦不戦避戦! 軍事行動絶対反対! 非武装非暴力! 絶対平和主義! これ以外にない。
夏以来「平和と戦争」「生と死」について本気で考えています。空疎な大和魂と甲斐なき神風頼みとで本土決戦を叫ぶ者たちもいて、極限状況にまで追い詰められたところに、今に至るもその後遺症に苦しむ人たちが多数いる人類史上初めての2発の原子爆弾投下。これで、ようやく無条件降伏をした無残な歴史の教訓を、かの人たちは何と考えているのだろう。
「(昨日?)そんな遠い過去のことは覚えていない」というセリフは、反ナチス映画の決定版にして最上のラブ・ロマンス「カサブランカ」でハンフリー・ボガート演じるリックが口にしてこそ様になる。政治的に責任ある立場にいる人たちは、あの悲惨な自由なき戦前・戦中・戦後の状況をゆめゆめ忘れてならないはずだ。集団的自衛権の発想は、日独防共協定・日独伊防共協定に続く日独伊三国同盟とは、時代背景も異なれば、内容も違っているとはいうものの、その危険性において同断です。
戦争には、正戦も義戦も聖戦もなく、戦争は、すべて愚にして悪です。この点に関しては「見解の相違」などありえない。
「祖国存亡の秋(とき)、諸君は頽勢(たいせい)挽回(ばんかい)のため決死の覚悟で海軍に志願してくれた、いまこそ、その諸君の志を活(い)かす秋が到来した/戦局を一変させるべく、帝国海軍では、この度、必死必中の兵器を動員することになった。それに伴って、その兵器への搭乗員を諸君たち練習生の中から募るよう要請があった/司令は、大義に殉じようとする者の志願を待つが、これは全く諸君たちの自発的意志に任せることである/全員。目を閉じよ。よく考えた上で、志願する者は一歩前に出るように」(城山三郎『一歩の距離 小説予科練』角川文庫版)。このような「自発的意志」決定が二度と求められてはならない。
櫻井忠溫『肉彈 旅順實戰記』と並び、明治戦争文学の白眉とされる海軍大尉・水雷艇長・水野廣德『此(この)一戰』の本文は、「兵は凶器なり」で始まり、「国大と雖(いえど)も、戦を好む時は必ず亡び、天下安しと雖も、戦を忘るゝ時は必ず危(あやう)し」と結ばれている(木村毅編『明治戦争文学集 明治文学全集 97』筑摩書房)。大日本帝国は水野の予言どおりに引導を渡された。